中庸への回帰

ベンチャーキャピタリスト/山家 創(やんべ そう)のブログです。

Yahoo!ファイナンスの企業情報「特色」欄に、どんな書かれ方をするか。

支援先のベンチャーと会話してて、ふと「Yahoo!ファイナンスの企業情報『特色』欄にどんな書かれ方ををするか(したいか)って、ビジョン策定や資本政策、IR戦略なんかに役立つのでは?」と思い立った。

例えば、こんな感じ。
(目に付いた会社をランダムにピックアップしただけで、意味はありません。)

ソニー
AV機器大手。海外でブランド力絶大。イメージセンサー、ゲーム、映画・音楽分野に重点

安川電機
独自制御技術でサーボモーターとインバーター世界首位。産業用ロボットも累積台数世界首位

浜松ホトニクス
光検出器関連で高技術。光電子増倍管で世界シェア約90%。医用など高性能品多数。開発型企業

島津製作所
分析・計測機器大手で医用機器、航空機器にも強い。半導体・液晶関連、バイオ・環境を育成

ユーグレナ
微細藻ミドリムシを活用した機能性食品、化粧品を販売。バイオジェット燃料の研究開発に注力

・サイバーダイン
ロボットスーツ「HAL」開発の筑波大発ベンチャー。レンタルによる医療・福祉サービス主体

セイコーホールディングス
腕時計で国内首位級。ムーブメント世界的。電子部品、クロックも展開。創業の服部家が大株主

日本ライフライン
医療機器輸入商社。ペースメーカーなど心臓領域が得意分野、EPカテーテル等を自社生産

・パイオラックス
自動車向けの精密ばねと工業用ファスナーが両輪。日産グループ向け5割。医療機器も育成

・藤森工業
樹脂包装材大手。医薬、食品向けから、電子材料などへ展開。偏光板用保護フィルムは世界首位

古野電気
魚群探知機、電子海図など船舶用電子機器の世界大手。無線技術核にGPSや医療機器事業強化


メジャーどころから、そうでない企業まで、その企業をあまり良く知らない個人投資家が、Yahoo!ファイナンスを見た時に認識する情報。何を売ってて、どのポジションにいて、何が強みで、これからどこに目を向けてくのか。
自社の事業について説明する「エレベーターピッチ」は有名だが、40〜50文字のYahoo!ファイナンスの特色欄に何を集約するかって、結構難しい。

ベンチャー羅針盤に使えるかもしれないなと。

まとめ:「研究開発型ベンチャー投資」で意識すべき直近の実績や技術ロードマップ

仕事がてら、直近のベンチャー投資や技術ロードマップを調査したので、せっかくなのでまとめておく。
研究開発型ベンチャーに投資をするVCやキャピタリストとして意識すべきことを重点的に。

ベンチャー白書2016(一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンター

第1章 1.2015年度のベンチャー投資

・日本のVC等による年間投資は1162件に対し1302億円
・国内向け投資は874億円
・国内向け投資はIT関連:51.9%、バイオ/医療/ヘルスケア:18.7%
・国内向け投資の1件当たり平均投資金額は、IT関連:87.5百万円、バイオ/医療/ヘルスケア:123.4百万円、工業/エネルギー/その他産業:95.5百万円、製品/サービス計:60.8百万円
・直近5年間のトレンドとして、投資先ステージはシード、アーリーへシフト
・国内向け投資のステージごとの1件当たり平均投資金額は、シード:58.9百万円、アーリー:90.8百万円

第1章 3.投資回収の状況

・EXIT件数(比率)の推移は、IPO:92件(15.9%)、M&A:41件(7.1%)、セカンダリーファンド等への売却:140件(24.3%)、会社経営者等による買戻し:225件(39.0%)
・種類株の利用が増加している。15年度は金額比率で種類株:55.8%、普通株:44.2%
・2016年1~6月のIPOを俯瞰すると、ほとんどが対初値で騰落

第1章 5.覆面座談会

・2015年度の大口調達は、Spiber:96億円、メルカリ:84億円、アストロスケール:39億円

コメント

まだまだIT関連にお金が集まっている感じ。最近は研究開発型ベンチャー投資が流行なので、直近ではもう少し非IT関連にお金が集まっているような。1社あたりの平均投資金額は、大体肌感に合致。
EXITとしては、セカンダリー等への売却が多くてびっくり。あとは、会社経営者等による買戻しが多い。はっきり言って、これらはベンチャー・起業家にとっては何の得もしない(むしろマイナス)EXITなので、日本のVCってやっぱりエグイ

調査レポート: 186社の登記簿から分かったスタートアップの資金調達の「相場」

500startups.jp

・調査対象:2016年1月〜2017年3月に1億円以上の資金調達を行ったスタートアップ
・資金調達額の中央値は、シリーズAが2.6億円、シリーズBが3.8億円、シリーズCが4.0億円、シリーズDが13.5億円
・ポストバリュエーションの中央値は、シリーズAが11.7億円、シリーズBが18.9億円、シリーズCが35.5億円、シリーズDが66.2億円
・希薄化率の中央値は、シリーズAが22.1%と最も高く、シリーズBが17.1%、シリーズCが15.2%、シリーズDが10.8%
ストックオプション比率の中央値は、シリーズBが4.3%、シリーズCが4.6%、シリーズDが8.9%

技術ロードマップなど

NEDO:技術ロードマップ

www.nedo.go.jp

・新しいものから順に興味があるロードマップを閲覧すると勉強になる。個人的な関心領域は、以下の通り。

光電子集積技術に関する開発動向及び技術ロードマップ2015

・2030年を俯瞰すると、技術的には、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)やM2M(Machine to Machine)の普及、ビッグデータの活用、映像情報の高精細化(4K、8K)等、情報処理技術及び情報通信技術の高度化に伴う情報化のさらなる拡大によって、全世界の情報通信データ量が2010年の1000倍と爆発的に増加すると予想
地球温暖化等のエネルギー・環境問題の解決策として、低消費電力化、省資源化、低環境負荷化が求められている。このような中、電気回路と光回路を実装、集積化することで光配線によるデータ伝送を実現し、電子機器の省電力化、高速化、小型化を可能とする光電子集積技術は、これらの課題を解決する情報処理及び情報通信分野におけるキーテクノロジとして期待されている。
2030年には扱うべき情報量は2 YB(Yotta Byte、1024バイト)で、2010年の約1000倍に達すると見込まれている。
・2030年には、生活環境の身近から“雲の上(クラウドから先)”までのすべての階層において、莫大な情報の“取得”・“伝送”・“処理”・“利用”が我々の社会生活を支える技術基盤として、ますます重要になると考えられる。信号処理を担う電子技術と信号伝送を得意とする光技術、それぞれの特徴を活かした光電子集積技術はその最有力候補である。

・光電子集積技術関連市場動向
(ⅰ) スパコン、サーバ等の情報処理機器関連市場
(ⅱ) ルータ、スイッチ、光リンク、PON用ONU等の通信機器関連市場
(ⅲ) その他(自動車、ロボット、計測機器、ハイエンド撮像機器、ディスプレイ、ハイエンドウェアラブル端末、ゲーム機器、バイオ・医療機器、航空機等)のポテンシャル市場
(ⅳ) シリコンフォトニクス製造市場
(ⅴ) シリコンフォトニクスの競合市場(VCSELやDFBレーザ等をディスクリート実装するコンベンショナルな光リンク)

・各技術分野の開発動向の概要は、下記の通り。
(1) 高密度光配線
チップ間(ボード内)の光インターコネクトにおける高密度光配線へのシリコンフォトニクス技術適用は、世界的に見ても研究開発例はまだ少ない。PETRA、IBMIntel、HPなどが主な研究開発機関である。日本の国家プロジェクトおよび世界で代表的なコンピュータ企業が先駆的にこの分野に向けた研究開発を進めていることは注目すべきである。

(2) 光リンク
現在の研究開発状況において、シリコンフォトニクス技術の主な適用先は光リンクに用いられる光トランシーバ関連である。Luxtera、Intel、Mellanox、Acasia、IntelIBMなどが牽引している。PETRAは、開発した光I/Oコア技術のアクティブオプティカルケーブル(以下、AOC)への適用を狙っている。

(3) スイッチ
シリコンフォトニクス技術の光スイッチへの適用については、データセンタへの応用やメトロ・コアネットワークのROADM応用の研究開発がいくつか実施されているが、まだ多くはない。データセンタへの応用はアイディア提案レベルである。

(4) センサ
シリコンフォトニクス技術を用いたセンサへの適用は、現時点では、アプリケーションが模索されている段階であり、大学や研究機関からの発表で占められている。特に、Gent大はIMECと共同で、バイオセンサやガスセンサを実現している。

(5) 実装・ファブ
学会では、シリコンフォトニクス・プラットフォームやそれを用いたMPW(Multi-Project Wafer)サービスなどの発表がなされている。

・技術ロードマップによれば、情報通信インフラとして、2020年に400Gbps/ch x 波長多重、2025年に1Tbps/ch x 波長多重が求められる。情報通信処理インフラとしては、ボード間で2020年に50Gbps/ch、2025年に100Gbps/ch が求められる。これにミートする集積技術及びデバイス技術が必要。実装技術としては、2.5次元実装や3次元実装などが求められる。

メモ
  • VCSEL(ビクセル):垂直共振器面発光レーザの略称で、半導体レーザーの一種。低価格、大量生産に適する。

goo.gl

  • DFBレーザ:分布帰還型(Distributed Feedback : DFB)レーザー。波長安定性が高い、大容量・長距離通信の光通信に用いられている。
  • 光スイッチ:主に光通信網で使用されるデバイスで、電気信号に変換することなく光信号のまま特定の信号を分岐したり行き先を切り替える装置。

goo.gl

電子・情報技術分野 技術ロードマップ2015

(1)デバイス分野
・注目領域は、パワー半導体、システムLSI、メモリ・ストレージ、通信用デバイス
・配線・実装技術として、光インターコネクトは一つのテーマ
・先端デバイス技術としては、Nano CMOSやBeyond CMOS
・パワー半導体はSiC、GaN、Ga2O3ほか、いずれも変換効率向上、小型化、コスト低減が課題
・プリンテッド・エレクトロニクスの課題は、印刷TFTの高性能化、半導体層の高移動度化、プロセス温度の低温化など

(2)情報通信(伝達・蓄積)分野
・重点テーマは、広帯域化、省電力化、大規模化、高機能化・新機能の4つ。
・広帯域化については、光ノード技術が重点技術の一つ
・省電力化については、マネージメント技術や情報家電ネット―ワーク(IoT)。
・高機能化については、暗号技術や認証技術が興味深い。トラヒック計測・予測技術も大事。

(3)情報通信(情報処理・制御)分野
クラウドコンピューティング、ネットワーク制御技術、組み込みソフトウェア、ディペンダビリティ(自立的自己修復的な動作)

ナノテクノロジー・材料技術分野の技術ロードマップ2016

・まとめ中

ディスプレイ分野の技術ロードマップの策定に関する検討および市場・技術開発動向等に関する調査

・まとめ中

機能性化学材料の現状と中長期技術開発課題に関する調査

・まとめ中

経産省:技術戦略マップ2010

www.meti.go.jp

コメント

個人的には、情報通信がもたらす人間の進化と、物理的・機械的な技術がもたらす人間の進化、の両面に関心がある。時間・処理能力・フィジカルなど、人間がより人間らしくあるための進化だ。
光電子集積技術や付随するデバイス・実装技術は前者だし、まとめ中だがナノテクノロジーや材料技術の革新は、後者。異なる技術も、実は同じ未来に繋がっている。

「研究開発型ベンチャーにおいて、知財戦略は重要である」の真意を理解するための二冊

「研究開発型ベンチャーにおいて、知財戦略は重要である」

誰も否定することのない、もはや使い古された言葉と言っても過言ではないくらい、至るところでこの標語を耳にする。下町ロケットのモデルとして有名になった弁護士の鮫島先生ほか、多くの諸先輩方・先生方の努力ゆえに、知財戦略の重要性が日の目を見たことに他ならないが、一方で、研究開発型ベンチャーや僕たちVCの人間が、本質的にその重要性を理解しているか?というと、僕自身はかなり怪しかった。

そこで、今回ご紹介する二冊のほか、知的財産やベンチャー法務という観点でいくつか本を読んで、理解したこと。
それは、「特許を取ること自体に、あまり価値はない」ということだ。すごく当たり前のことだけど、すごく重要だから整理したいと思う。

レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識

レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識

何のために特許を取るのか?

この質問に的確な返答が出来る人は、研究開発型ベンチャー関係者にも多くないんじゃないかと思う。ちなみに、これまでの僕の認識は、こうだ。

  • 特許は「技術力の証明書」みたいなもの
  • 特許を取れば「技術を守る」ことが出来る
  • 特許は資金調達のための「(投資家に向けた)箔」みたいなもの

間違ってはいないし、一理あるとも言えるだろうが、いまのぼくの解釈は、こうだ。

  • 特許は「模倣のリスクを負って、模倣を防ぐ」ものだ。
  • 特許は「訴訟する覚悟」とセットで取るものだ。
  • 特許を取らないという「戦略上の価値」があり得る。

私なりの言い方をすると、特許というものは「知財ににせた透明な防護服」です。放射線から作業者を守る放射線防護服や火災から消防士を守る消防服のイメージです。
防護服を着ていれば、外敵からは守られるかもしれませんが、中身は丸見えになってしまっている。これが、特許なのです。
(レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識)

言い得て妙だと思う。つまり、特許というのは自社の知財を「守る」ことが目的である一方で、特許という名の「公開情報」として世界の目にさらされるのだ。自社の特許(公開情報)をヒントとして、全く新しいアイディアを競合他社が生み出した場合、それは「模倣」とは呼べないリスクが常に存在するというわけだ。

そして、特許というのは、模倣された場合に「差止請求や損害賠償請求を発動する」ためのトリガーでしかない。競合他社が模倣した自社製品を購入する顧客企業に対して、「それは当社の模倣品ですので購入を取りやめて下さい」と話したところで、何の価値もない。法的措置の行使とセットになって初めて価値を持つものが、特許なのだ。

特許権を権利行使すること自体はビジネス上のゴールではないのだから、特許権を権利行使してビジネス上で何を得ようとしているのかを決める必要がある。このビジネスゴールは、(ア)特許侵害によって奪われたマーケットシェアの回復(差止請求)、(イ)特許侵害によって侵害者に奪われた利益の回復(損害賠償請求)の二つに収斂する。
知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く)

研究開発型ベンチャーは、基本的に技術の特許化を重要視しているし、VC・投資家サイドも、取得する特許を投資検討の材料にしがちだ。しかし、特許の価値が模倣に対する法的措置の行使にあるならば、訴訟コストを負担できるとは考えにくい研究開発型ベンチャーが「特許を取らない」という戦略上の価値もあると思う。

ポイント1 その特許が現在または将来の自分のビジネスに役立つかどうか
ポイント2 自分のアイデアをもとに作られた製品を見ただけで、他者がそのアイデアを真似できるかどうか
ポイント3 自分のアイデアをパクった者が現れたとき、裁判で戦う覚悟と勇気と費用があるかどうか
(レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識)

何かの製造レシピやノウハウなどは、特許化されないことが多い。そして、そのような特許化されない部分にこそ、そのベンチャー企業のコア技術が存在している割合も多いように思う。

僕が特許に対して以前に感じていた「(投資家に向けた)箔」とは、VCの立場になってみると間違ってはいないと思うが、ある種これは、VCがベンチャーに騙されていることに近い。ベンチャーにしてみれば、してやったりだろう。

つまり大事なことは、「特許を持っているか」ではなく、「なぜその特許を持っているのか」という問いだと思う。

  • ベンチャーであれば「なぜその特許を取ろうとしているのか」を改めて考えてみる
  • VCであれば「その特許を保有する理由」を戦略的に語れるかどうかを評価してみる


「研究開発型ベンチャーにおいて、知財戦略は重要である」の真意は、そこにあるのではないだろうか。

東北にベンチャーをつくることの意味

ある日のつぶやき

先日、「東北にベンチャーをつくる」ことについて、一連のツイートをした。割と自分の本音を表現できた気がするので、全て紹介したい。


実はまだ「東北にベンチャーをつくること」の意味を分かっていない。

偉そうにツラツラとツイートしているが、実はまだ「東北にベンチャーをつくること」の意味をよく分かっていない。意味があるのかどうかすらも分からない。なぜやるのか?と問われれば、「僕のエゴだ」としか答えられない。

そこで、もう少し自分なりに「東北にベンチャーをつくること」の意味を考えてみたい。「東北にベンチャーをつくる」と何が起きるのか。

東北地方に上場企業は何社あるのか?

新たに会社を興すという意味では、現在の上場企業も昔は皆ベンチャー企業だった。そして、そのベンチャー企業の成功は、すなわちEXITである(もちろん、成功でないEXITもある。また「成功」の定義は会社によって異なるので、あくまで一般論である)。ベンチャーキャピタル、投資家にとってもEXITが成功であり、ベンチャーのEXITはIPOM&Aだ。

そこでまずは、東北に上場企業(かつてのベンチャー企業)は何社いるのかを調べたい。ここでは「本店所在地が東北にある」企業を対象とした。

xn--vckya7nx51ik9ay55a3l3a.com


このサイトのデータを少し加工させていただいてリスト化したものは、スプレッドシートで閲覧のみ共有しておこう。

docs.google.com

結論を言えば、東北地方の上場企業は55社ある。
※リスト中の日本化成(株)は今年三菱化学の完全子会社になっている。

全国の上場企業は約3600社だから、東北地方の上場企業はそのうち2%に満たないということになる。
全国100社の上場企業をあたって、ようやく1,2社東北地方の企業が見つかるというレベルだ。

なお、東証一部上場企業に限れば、東北地方には28社存在する。東証一部上場企業は2000社を超えており、これは全体の1.5%に満たない。しかも、この東証一部上場企業のうち約半数の12社は地銀(金融機関)である。

ここで少し補足すると、大前提として、上場企業=価値のある会社ではない。「価値」の定義はさておき、非上場の会社にだって「価値」は存在するし、上場企業だから「価値」があるとも限らない。とはいえ、上場企業というのは株式市場というオープンマーケットで株主の厳しい目にさらされている。つまり、売上や利益を上げなければマーケットから退場せざるを得ないし、コンプラもしっかりしないといけないため、一定の「価値」はあると考えるのが妥当だ。

東北地方にイノベーションは起きているか?

イノベーションを「新たな企業が生まれ、上場すること」と仮に定義して、設立年や上場年の分布を見てみたい。

まず、東北地方の上場企業55社のほとんど(48社)が30年以上前に設立された企業だ。僕の年齢がいま30歳であるから、僕より若い企業はほとんどないと言える。
また、設立10年以内の上場企業が3社あるが、全て30年以上前に設立された会社同士の経営統合から生まれた持株会社である。
じもとホールディングスフィデアホールディングス、ダイユー・リックホールディングス)
つまり、先の定義に従えば、実質この10年間に東北地方でイノベーションは起こっていないと言える。

上場ケースを見てみると、ここ5年以内に上場した企業は6社いる。


持株会社の2社を除く4社の内、UMNファーマ(2004年設立)、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(2003年設立)は比較的若い企業としてイノベーションと言えるかもしれないが、逆に言えば、ここ十数年でのイノベーションは、たったの2社だ。

東北地方の上場企業の時価総額は?

株式市場という観点で会社の価値を測る指標の一つに時価総額がある。株価はある種人気投票で決まるため、時価総額がその会社の本質的な価値(利益を上げること)と直接的につながるわけではないものの、投資家が期待するくらい価値のある(ありそうな)企業とも言える。

東北地方の上場企業の時価総額は、合計で約2.3兆円。ちなみに、国内株式市場の時価総額合計は約582兆円だ。
株価および時価総額が人気投票だとすれば、日本の上場企業において東北地方の人気(期待)は1%にも満たない100人の投資家に「東北の上場企業に期待しているか?」と質問して、「はい」と答える投資家はおそらく一人もいない。たしかに、東北出身者以外に東北の上場企業を聞いたところで、おそらく名前に上がるのは東北電力くらいであろう。そのくらい、東北地方の上場企業に寄せられる期待は薄い

次に時価総額の分布を見てみよう。
まず、東北地方に時価総額1兆円を超える企業は1社もいない(17年2月15日時点)。東北電力の7150億円が最大だ。
ちなみに時価総額1兆円と言えば、国内の時価総額ランキングでトップ130位あたりに位置する。17年2月15日時点では、セイコーエプソン野村総研三菱自動車ヤマトホールディングスなどだ。普通の人なら、まぁ聞いたことのある企業だ。それが東北にはいない。

ベンチャーやVC界隈では、未上場企業ながら企業価値(≒時価総額)が1000億円を超える企業を「ユニコーン」、100億円以上を「ケンタウロス」などと呼ぶ。時価総額が1000億円と言えば、国内の時価総額ランキング770位あたりで、ユーグレナ王将フードサービスRIZAPグループなど私たちがよく耳にする企業もいる。ユーグレナは東大発ベンチャーとして初めて東証一部に上場したベンチャーの成功例の一つでもある。
一方、時価総額100億円となるとランキングはほぼ圏外で、一般の人が見聞きする企業は殆どない。上場はしているものの、成功予備軍企業というところか。

さて、東北地方のユニコーンは4社、ケンタウロスは34社ある。これだけ見ると悪くないように思えるが、もう少し内情を見てみよう。

残念ながら、ユニコーン4社のうち3社は、地銀・インフラ企業だ。金融機関やインフラは国策の影響を受けるため「かつてのベンチャー企業」とは呼びづらい。「かつてのベンチャー企業」としてユニコーンと言えば、日東紡の1社だけだ。

まとめ

ここまでの話をまとめてみよう。

東北地方には、

  • 上場企業は55社。全国における比重は2%に満たない。
  • 東証一部上場企業も全国の2%に満たない。しかも約半数は地銀(金融機関)。
  • 30歳(僕)より若い上場企業がほとんどない。
  • ここ10年くらいイノベーションが起きていない(10数年内に設立された企業の新規上場は実質2社)。
  • 上場企業への期待(人気)はほとんどない。
  • 時価総額1兆円以上の上場企業がない。
  • かつてのベンチャー企業としてユニコーンは1社だけ。
  • 誰もが知っている企業はほとんどない。

これが現実だ。北海道はどうか、九州地方はどうか、という点は調べてみる必要はあるが、いわゆる地方企業の現実は似たようなものではないだろうか。

「東北にベンチャーをつくる」と何が起きるのか

このブログを書きながら、僕には一つ目標が出来た。
それは、東北地方でこれから10年以内に時価総額1000億円を超えるベンチャー企業IPOを生み出すということだ。

これから10年以内に時価総額1000億円を超えるベンチャー企業(とそのIPO)をつくると、東北地方に何が起きるか。

  • 僕より若い上場企業が生まれ、若い世代が東北に集まるかもしれない
  • 一般の人でも見聞きするような上場企業が生まれ、働く人・家族に誇りが生まれるかもしれない

そして、その会社がもし時価総額1兆円を超える企業に成長したなら?

誰もが知る東北地方の象徴的な企業になるだろう。

時価総額から見れば、時価総額1兆円の企業を1つ作ったところで、日本全国から見た東北企業への期待度は殆ど変わらないかもしれない。

だがもしかしたら、その後続がどんどん育つかもしれない
そのとき日本社会は、東北は、大きく変わるのではなかろうか。


「東北にベンチャーをつくること」自体に意味はないが、「東北のベンチャー企業が成功すること」には間違いなく意味はある。

キャピタリストは可能性を“探る”のではなく“感じる”のだと思う。

最近、ベンチャー・キャピタリストである自分の課題として強く意識することがある。

それは、投資判断・投資意思決定の遅さだ。

以前にブログで書いた「ベンチャーキャピタリストに求められる意思決定とは?」では、投資しないという意思決定の重要性を述べたが、今回はその意思決定のための「判断基準」という話に近い。

どういうことかと言えば、キャピタリストはベンチャーの可能性を“探る”のではなく“感じる”ものではないかということだ。

例えば、いまの僕には以下のようなことが起きる。

  • どのベンチャーの技術も有望そうに見える
  • どのベンチャーにも投資したいと考えてしまう
  • どのベンチャー起業家も尊敬するし、助けたい
  • 直感的に投資は難しいと思ったとしても、投資する理由を考えてしまう

これは自分自身の勉強不足、経験不足が原因にあることは深く反省した上で、キャピタリストはベンチャーの可能性を“探る”のではないと思う。この“探る”という定義が難しいが、“本来ないものをあると思って探す”ことに近い。

例えば、誰も見向きもしないベンチャー企業に唯一投資したキャピタリストがいたとする。そのベンチャー企業が大成功をおさめたとき、果たして彼(キャピタリスト)はベンチャーの可能性を探して投資したのだろうか?

僕の感覚としては、NOだと思う。

彼は“探った”のではなく“感じた”から投資したのではなかろうか。

つまりは、初見で話を聞いただけで可能性を感じるくらいのベンチャーでないと、そもそも成功可能性は限りなく小さいのだと思う。そして、そのベンチャー企業の可能性をずるずると探ることは、決してベンチャーにとっても望ましいことではない。日本のVCでよく起こりがちな「別途検討します」というスパイラルにハマり、ベンチャーの時間を奪う。

ベンチャーキャピタリストは、可能性を感じなければ即断で断わる(逆もしかり)。

今年は、特にこれを意識したいと思う。

 

 

 

まずは、5年後に生き残る大学発ベンチャーを目指して

先日、文科省主催の『大学発ベンチャー創出シンポジウム』に参加してきた。
産業革新機構の志賀CEOをはじめ、大学発ベンチャー界隈では名だたる方々が登壇する、なかなか勉強になるシンポジウムであった。

シンポジウムの感想を含めて、簡単に「大学発ベンチャー」について少し調べたものをまとめたい。

大学発ベンチャーの事業環境

平成27年の経産省調査によれば、大学発ベンチャーは1,773社存在する。また、この内、黒字化しているベンチャーは55.6%に上る。
大学発ベンチャーの数、黒字化の比率いずれも前年を上回っている。ちなみに大学発ベンチャー数のピークは平成20年で1,807社だ。

現在はほぼピーク時の水準に達しており、既に900~1000社が黒字化していると言えよう。
47都道府県の各地に大学発ベンチャーが存在していると仮定(※)すれば、1都道府県あたり20社程度が既に黒字化しているということだ。
これは感覚的にかなり多いと思う。

※実際には東大発のベンチャーが圧倒的に多いので、あくまでも仮定の話だ

もう少し過去に遡れば、平成16年において黒字化した大学発ベンチャーの比率は26.6%であった。
およそ10年を掛けて研究開発、事業を行ってきた大学発ベンチャーが徐々に実を結んできたということであろう。

但し、本調査における「大学発ベンチャー」とは、

1. 研究成果ベンチャー:大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で
新規に設立されたベンチャー

2. 協同研究ベンチャー:創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と協同研究等を
行ったベンチャー

3. 技術移転ベンチャー:既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー

4. 学生ベンチャー:大学と深い関連のある学生ベンチャー

5. 関連ベンチャー:大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー

とあるから、全ての大学発ベンチャー = 研究開発型ベンチャーとは呼べないことに注意は必要だ。
例えば、東大の学生たちが起業したアプリ開発ベンチャー大学発ベンチャーと呼ばれ得る。
一般的な大学発ベンチャーの定義は、1. 研究成果ベンチャーだと思われるが、これがどの程度存在するのか気になるところだ。

大学発ベンチャーを支援する政策

大学発ベンチャーを支援する政策も充実してきた。
主立ったものをいくつか紹介する。

科学技術振興機構JST

大学発新事業創出プログラム(START)
  • プロジェクト支援型

1プロジェクトあたり基本額年間3千万円 x 3年以下

  • 事業プロモーター支援型

1事業プロモーターあたり原則上限年間2,500万円程度 x 5年度
※1事業プロモーターあたり4~5件程度

研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)

必ずしも大学発ベンチャーというものに限らないが、大学の研究成果を実用化するための技術移転支援制度だ。対象によっては最大で15億円をJSTが支援する。

新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO

こちらも大学発ベンチャーには限らないものの、研究開発型ベンチャーという広いくくりで支援する制度だ。

中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業

中小企業という枠組みでも大学等との共同開発が支援されている。

1億円以内(下限は1,500万円) ※事業期間中の総計

  • 実施項目2 追加実証・用途開拓研究支援事業-サンプルづくり支援事業-

1,000万円以内(下限は300万円)


これらに限らず、各地方自治体等でもベンチャーへの助成事業は活発化している。

大学発ベンチャーを支援するVC

上述したNEDOの「シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援」で定められる認定VCとして、現在のところ18社のVCが認定されている。
加えて、昨今では東大を始めとする「大学発VC」が生まれており、大阪大、京大、東北大を含む計4大学に計1,000億円という膨大な資金が流れている。

business.nikkeibp.co.jp

事業会社によるファンド(CVC:コーポレートベンチャ–キャピタル)のニュースもよく目にするが、これも自社の新規事業の種として、研究開発型ベンチャーに注目が集まっている一因であろう。

大学発ベンチャーは、いまバブルである

シンポジウムの感想について誤解を恐れずに言えば、

大学発ベンチャーは、いまバブルである

ということに尽きる。シンポジウムに参加したいくつかのVCの中には、従来は大学発ベンチャーとは遠いところに位置していたVCも含まれている。
彼らは、いまどこに資金が流れているかを肌感覚として持ち合わせているのだ。

ただし、冒頭の経産省調査で忘れてならないのは、平成26年から27年にかけて24社増えた大学発ベンチャーの内訳とは、平成27年以前に設立されたベンチャーで新たに認識された144社に平成27年新規設立の52社を足して、調査時に閉鎖が確認された172社を除いているということだ。
つまり、新たに生まれる以上の大学発ベンチャーが死んでいるのだ。

たしかに大学発ベンチャーはバブルであり、今後数年で見れば大学発ベンチャーは一時的に増えるかもしれないが、長期的には淘汰が進んでいくと見る方が自然だと思う。

そして、5年後に本物だけが生き残る。

これは大学発ベンチャーだけでなく、大学発ベンチャーに投資する私たちVCも、そうだ。
時代に流されすぎず、確かな眼と支援で、まずは5年後に生き残る大学発ベンチャー創出を目指したい。

ざっと「STEM」を知るなら『AI時代の人生戦略』と『日経テクノロジー展望2017 世界を変える100の技術』

ベンチャーキャピタリストという仕事柄「STEM」は必須である。
今年の目標の一つも、この「STEM」の知見を増やすことだ。
そんな「STEM」をざっと知りたいときにオススメの二冊を紹介する。

STEMとは?

STEMとは、

  • サイエンス(科学)の「S」
  • テクノロジー(技術)の「T」
  • エンジニアリング(工学)の「E」
  • マセマティックス(数学)の「M」

を並べた造語である。
「技術」と「工学」の区別について、『AI時代の人生戦略』著者:成毛氏は"技術はツールをつくること、工学はそのツールを活かす方法"だと述べている。

日本に根付く「文系」と「理系」

私自身はSTEMという言葉を知っていたし、仕事柄「STEMは超大事」という実感をこれまでも持ってきた。裏を返せば、いわゆる「理系」への羨望があった。「文系」である自分へのコンプレックスというべきか。

日本には、この「文系」と「理系」という区別が根強い。これは日本の教育において、大きなマイナスであると思う。

例えば、大学を卒業して、社会に出て、営業という仕事に就くとする。
日本ではなぜかこの営業という仕事は、「文系の方が得意だ」という謎のレッテルが存在する。
文系でも営業が苦手な人はたくさんいるし、逆も然りだ。だけども「文系」と「理系」というカテゴリーに学生時代どっぷりと浸かることで、本来自分が好きなこと、得意なことを見失ってしまうのではないか。

そもそも、「文系」である経済学や経営学部は、「社会科学」という名の「サイエンス」なのだ。

とは言え、STEMをどう学ぶのか

「STEMは超大事」とは言え、30歳を過ぎて大学院で研究をするわけにもいかない。そこで大事なのは。成毛氏のいう「実感してから理解する」だと思う。

そもそも英語のスタディ(study)は、ラテン語のストゥディウム(studium)に由来している。その意味は「好奇心をもって没頭する」ということ。

実感すること、理解することには、楽しさが存在する。楽しく学ぶことが重要なのだ。

そこで浅く広く、今の世の中のトレンドとして技術を俯瞰するのに『日経テクノロジー展望2017 世界を変える100の技術』は適している。内容が薄すぎると思う箇所も多々あるが、まずは100の技術を知るというスタンスだといい。

例えば、僕であれば、以下のような技術に興味をもった。

興味を持った技術について、より深堀する読書をすれば、それだけでも成長感があると思う。

有り難いことに、僕は仕事柄おおくの技術に触れる。それ故に、技術が社会にどう実装されるのか、実感を持ちやすい。
だけれども、その先に求められるのはSTEMを組み合わせて活用する手腕であり、思考回路だ。それはまた別の手段で身に付けねばならないだろう。