中庸への回帰

ベンチャーキャピタリスト/山家 創(やんべ そう)のブログです。

東北にベンチャーをつくることの意味

ある日のつぶやき

先日、「東北にベンチャーをつくる」ことについて、一連のツイートをした。割と自分の本音を表現できた気がするので、全て紹介したい。


実はまだ「東北にベンチャーをつくること」の意味を分かっていない。

偉そうにツラツラとツイートしているが、実はまだ「東北にベンチャーをつくること」の意味をよく分かっていない。意味があるのかどうかすらも分からない。なぜやるのか?と問われれば、「僕のエゴだ」としか答えられない。

そこで、もう少し自分なりに「東北にベンチャーをつくること」の意味を考えてみたい。「東北にベンチャーをつくる」と何が起きるのか。

東北地方に上場企業は何社あるのか?

新たに会社を興すという意味では、現在の上場企業も昔は皆ベンチャー企業だった。そして、そのベンチャー企業の成功は、すなわちEXITである(もちろん、成功でないEXITもある。また「成功」の定義は会社によって異なるので、あくまで一般論である)。ベンチャーキャピタル、投資家にとってもEXITが成功であり、ベンチャーのEXITはIPOM&Aだ。

そこでまずは、東北に上場企業(かつてのベンチャー企業)は何社いるのかを調べたい。ここでは「本店所在地が東北にある」企業を対象とした。

xn--vckya7nx51ik9ay55a3l3a.com


このサイトのデータを少し加工させていただいてリスト化したものは、スプレッドシートで閲覧のみ共有しておこう。

docs.google.com

結論を言えば、東北地方の上場企業は55社ある。
※リスト中の日本化成(株)は今年三菱化学の完全子会社になっている。

全国の上場企業は約3600社だから、東北地方の上場企業はそのうち2%に満たないということになる。
全国100社の上場企業をあたって、ようやく1,2社東北地方の企業が見つかるというレベルだ。

なお、東証一部上場企業に限れば、東北地方には28社存在する。東証一部上場企業は2000社を超えており、これは全体の1.5%に満たない。しかも、この東証一部上場企業のうち約半数の12社は地銀(金融機関)である。

ここで少し補足すると、大前提として、上場企業=価値のある会社ではない。「価値」の定義はさておき、非上場の会社にだって「価値」は存在するし、上場企業だから「価値」があるとも限らない。とはいえ、上場企業というのは株式市場というオープンマーケットで株主の厳しい目にさらされている。つまり、売上や利益を上げなければマーケットから退場せざるを得ないし、コンプラもしっかりしないといけないため、一定の「価値」はあると考えるのが妥当だ。

東北地方にイノベーションは起きているか?

イノベーションを「新たな企業が生まれ、上場すること」と仮に定義して、設立年や上場年の分布を見てみたい。

まず、東北地方の上場企業55社のほとんど(48社)が30年以上前に設立された企業だ。僕の年齢がいま30歳であるから、僕より若い企業はほとんどないと言える。
また、設立10年以内の上場企業が3社あるが、全て30年以上前に設立された会社同士の経営統合から生まれた持株会社である。
じもとホールディングスフィデアホールディングス、ダイユー・リックホールディングス)
つまり、先の定義に従えば、実質この10年間に東北地方でイノベーションは起こっていないと言える。

上場ケースを見てみると、ここ5年以内に上場した企業は6社いる。


持株会社の2社を除く4社の内、UMNファーマ(2004年設立)、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(2003年設立)は比較的若い企業としてイノベーションと言えるかもしれないが、逆に言えば、ここ十数年でのイノベーションは、たったの2社だ。

東北地方の上場企業の時価総額は?

株式市場という観点で会社の価値を測る指標の一つに時価総額がある。株価はある種人気投票で決まるため、時価総額がその会社の本質的な価値(利益を上げること)と直接的につながるわけではないものの、投資家が期待するくらい価値のある(ありそうな)企業とも言える。

東北地方の上場企業の時価総額は、合計で約2.3兆円。ちなみに、国内株式市場の時価総額合計は約582兆円だ。
株価および時価総額が人気投票だとすれば、日本の上場企業において東北地方の人気(期待)は1%にも満たない100人の投資家に「東北の上場企業に期待しているか?」と質問して、「はい」と答える投資家はおそらく一人もいない。たしかに、東北出身者以外に東北の上場企業を聞いたところで、おそらく名前に上がるのは東北電力くらいであろう。そのくらい、東北地方の上場企業に寄せられる期待は薄い

次に時価総額の分布を見てみよう。
まず、東北地方に時価総額1兆円を超える企業は1社もいない(17年2月15日時点)。東北電力の7150億円が最大だ。
ちなみに時価総額1兆円と言えば、国内の時価総額ランキングでトップ130位あたりに位置する。17年2月15日時点では、セイコーエプソン野村総研三菱自動車ヤマトホールディングスなどだ。普通の人なら、まぁ聞いたことのある企業だ。それが東北にはいない。

ベンチャーやVC界隈では、未上場企業ながら企業価値(≒時価総額)が1000億円を超える企業を「ユニコーン」、100億円以上を「ケンタウロス」などと呼ぶ。時価総額が1000億円と言えば、国内の時価総額ランキング770位あたりで、ユーグレナ王将フードサービスRIZAPグループなど私たちがよく耳にする企業もいる。ユーグレナは東大発ベンチャーとして初めて東証一部に上場したベンチャーの成功例の一つでもある。
一方、時価総額100億円となるとランキングはほぼ圏外で、一般の人が見聞きする企業は殆どない。上場はしているものの、成功予備軍企業というところか。

さて、東北地方のユニコーンは4社、ケンタウロスは34社ある。これだけ見ると悪くないように思えるが、もう少し内情を見てみよう。

残念ながら、ユニコーン4社のうち3社は、地銀・インフラ企業だ。金融機関やインフラは国策の影響を受けるため「かつてのベンチャー企業」とは呼びづらい。「かつてのベンチャー企業」としてユニコーンと言えば、日東紡の1社だけだ。

まとめ

ここまでの話をまとめてみよう。

東北地方には、

  • 上場企業は55社。全国における比重は2%に満たない。
  • 東証一部上場企業も全国の2%に満たない。しかも約半数は地銀(金融機関)。
  • 30歳(僕)より若い上場企業がほとんどない。
  • ここ10年くらいイノベーションが起きていない(10数年内に設立された企業の新規上場は実質2社)。
  • 上場企業への期待(人気)はほとんどない。
  • 時価総額1兆円以上の上場企業がない。
  • かつてのベンチャー企業としてユニコーンは1社だけ。
  • 誰もが知っている企業はほとんどない。

これが現実だ。北海道はどうか、九州地方はどうか、という点は調べてみる必要はあるが、いわゆる地方企業の現実は似たようなものではないだろうか。

「東北にベンチャーをつくる」と何が起きるのか

このブログを書きながら、僕には一つ目標が出来た。
それは、東北地方でこれから10年以内に時価総額1000億円を超えるベンチャー企業IPOを生み出すということだ。

これから10年以内に時価総額1000億円を超えるベンチャー企業(とそのIPO)をつくると、東北地方に何が起きるか。

  • 僕より若い上場企業が生まれ、若い世代が東北に集まるかもしれない
  • 一般の人でも見聞きするような上場企業が生まれ、働く人・家族に誇りが生まれるかもしれない

そして、その会社がもし時価総額1兆円を超える企業に成長したなら?

誰もが知る東北地方の象徴的な企業になるだろう。

時価総額から見れば、時価総額1兆円の企業を1つ作ったところで、日本全国から見た東北企業への期待度は殆ど変わらないかもしれない。

だがもしかしたら、その後続がどんどん育つかもしれない
そのとき日本社会は、東北は、大きく変わるのではなかろうか。


「東北にベンチャーをつくること」自体に意味はないが、「東北のベンチャー企業が成功すること」には間違いなく意味はある。