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中庸への回帰

ベンチャーキャピタリスト/山家 創(やんべ そう)のブログです。

「研究開発型ベンチャーにおいて、知財戦略は重要である」の真意を理解するための二冊

「研究開発型ベンチャーにおいて、知財戦略は重要である」

誰も否定することのない、もはや使い古された言葉と言っても過言ではないくらい、至るところでこの標語を耳にする。下町ロケットのモデルとして有名になった弁護士の鮫島先生ほか、多くの諸先輩方・先生方の努力ゆえに、知財戦略の重要性が日の目を見たことに他ならないが、一方で、研究開発型ベンチャーや僕たちVCの人間が、本質的にその重要性を理解しているか?というと、僕自身はかなり怪しかった。

そこで、今回ご紹介する二冊のほか、知的財産やベンチャー法務という観点でいくつか本を読んで、理解したこと。
それは、「特許を取ること自体に、あまり価値はない」ということだ。すごく当たり前のことだけど、すごく重要だから整理したいと思う。

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何のために特許を取るのか?

この質問に的確な返答が出来る人は、研究開発型ベンチャー関係者にも多くないんじゃないかと思う。ちなみに、これまでの僕の認識は、こうだ。

  • 特許は「技術力の証明書」みたいなもの
  • 特許を取れば「技術を守る」ことが出来る
  • 特許は資金調達のための「(投資家に向けた)箔」みたいなもの

間違ってはいないし、一理あるとも言えるだろうが、いまのぼくの解釈は、こうだ。

  • 特許は「模倣のリスクを負って、模倣を防ぐ」ものだ。
  • 特許は「訴訟する覚悟」とセットで取るものだ。
  • 特許を取らないという「戦略上の価値」があり得る。

私なりの言い方をすると、特許というものは「知財ににせた透明な防護服」です。放射線から作業者を守る放射線防護服や火災から消防士を守る消防服のイメージです。
防護服を着ていれば、外敵からは守られるかもしれませんが、中身は丸見えになってしまっている。これが、特許なのです。
(レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識)

言い得て妙だと思う。つまり、特許というのは自社の知財を「守る」ことが目的である一方で、特許という名の「公開情報」として世界の目にさらされるのだ。自社の特許(公開情報)をヒントとして、全く新しいアイディアを競合他社が生み出した場合、それは「模倣」とは呼べないリスクが常に存在するというわけだ。

そして、特許というのは、模倣された場合に「差止請求や損害賠償請求を発動する」ためのトリガーでしかない。競合他社が模倣した自社製品を購入する顧客企業に対して、「それは当社の模倣品ですので購入を取りやめて下さい」と話したところで、何の価値もない。法的措置の行使とセットになって初めて価値を持つものが、特許なのだ。

特許権を権利行使すること自体はビジネス上のゴールではないのだから、特許権を権利行使してビジネス上で何を得ようとしているのかを決める必要がある。このビジネスゴールは、(ア)特許侵害によって奪われたマーケットシェアの回復(差止請求)、(イ)特許侵害によって侵害者に奪われた利益の回復(損害賠償請求)の二つに収斂する。
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研究開発型ベンチャーは、基本的に技術の特許化を重要視しているし、VC・投資家サイドも、取得する特許を投資検討の材料にしがちだ。しかし、特許の価値が模倣に対する法的措置の行使にあるならば、訴訟コストを負担できるとは考えにくい研究開発型ベンチャーが「特許を取らない」という戦略上の価値もあると思う。

ポイント1 その特許が現在または将来の自分のビジネスに役立つかどうか
ポイント2 自分のアイデアをもとに作られた製品を見ただけで、他者がそのアイデアを真似できるかどうか
ポイント3 自分のアイデアをパクった者が現れたとき、裁判で戦う覚悟と勇気と費用があるかどうか
(レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識)

何かの製造レシピやノウハウなどは、特許化されないことが多い。そして、そのような特許化されない部分にこそ、そのベンチャー企業のコア技術が存在している割合も多いように思う。

僕が特許に対して以前に感じていた「(投資家に向けた)箔」とは、VCの立場になってみると間違ってはいないと思うが、ある種これは、VCがベンチャーに騙されていることに近い。ベンチャーにしてみれば、してやったりだろう。

つまり大事なことは、「特許を持っているか」ではなく、「なぜその特許を持っているのか」という問いだと思う。

  • ベンチャーであれば「なぜその特許を取ろうとしているのか」を改めて考えてみる
  • VCであれば「その特許を保有する理由」を戦略的に語れるかどうかを評価してみる


「研究開発型ベンチャーにおいて、知財戦略は重要である」の真意は、そこにあるのではないだろうか。